現在(平成14年7月)、国会で医療制度関連法案が審議され、マスコミ等で大きく取り上げられている。今国会中に成立すれば来年4月施行が見込まれ、国民に与える影響も大きいと思われる。一方、これとは別にマスコミではほとんど注目されていないが今国会での議案として薬事法の改正があり、法案の成立後政省令の発令を経て、3年以内には施行の運びにある。薬事法の改正は製薬企業にとって、企業経営、安全対策等いろいろな面での影響が予想され、業界はその成り行きに注目している。日薬連等業界関係団体では既に改正に向けた施行内容の検討が行われている。薬事法は医薬品、医薬部外品、化粧品、医療用具の品質、有効性、安全性の確保を図るため、企業が行う製造・販売等について必要な規制を行う法律であり、製薬企業にとって薬事法の改正はきわめて身近な問題である。
現薬事法は昭和35年の制定以来、数次に渡る改正を経て、現在の法体系が構築されている。近年の科学技術の進歩、企業のグローバル化に伴い国際的な整合性、21世紀のニーズに合わせた見直しが必要となってきた。今回の薬事法改正の主な柱は下記の3点である。
1.医療機器に係る安全対策の抜本的な見直し
2.「バイオ・ゲノムの世紀」に対応した安全確保対策の充実
3.市販後安全対策の充実と承認・許可制度の見直し
特に上記3の承認・許可制度の見直しは医薬品等製造業、販売業に大きな影響が予想される。我が国の現行の医薬品・医療用具等の製造承認・許可制度は「医薬品・医療用具等の開発者が自ら製造所を保有して製品化すること」を前提とした、製造行為へのウエイトが大きい制度である。
今回の改正ではこの「自ら保有する製造所において製造するとともに、卸売販売業等に販売する行為」に着目した許認可制度から「元売行為(製品を出荷・上市する行為)を導入することにより、製造工程に係るアウトソーシングを完全に自由化した制度への改正である。すなわち、製造行為のみではなく、製造から市販後安全対策までの全般に着目した法体系への改正である。製造所を有しなくとも、元売販売業の許可を得ることにより医薬品、医療用具等の販売は出来ることになるが市販後安全対策の一層の充実が要求される。元売販売業の許可は厚生労働大臣(或いは都道府県知事)より与えられると見込まれるが、許可要件として市販後安全対策を重視する観点から、元売販売業者は品質管理体制及び市販後安全管理体制等を定めることが義務づけられる見込みである。欧米の許認可制度は販売行為にウエイトを置いた制度であり、近年我が国の製薬企業の国際化、新薬の世界同時開発が進む中で、国際的な整合性を図るための法改正が必要となった。
この改正により、従来我が国では外部メーカーに医薬品等の製造を委託する場合、少なくとも1つの製造工程は自社で行わなければならなかったが全面的な委託製造が可能となり、製薬業界では委受託製造が一層進むものと予想される。既に、このような改正に向けて、国内医薬品受託メーカーでは製造設備の整備・拡充が行われており、一方大手製薬メーカーでは生産体制の見直し、委託製造の拡大が検討されている。
製剤機械技術研究会では昨年、教育委員会を発足させ、初年度の企画として今年4月より教育研修会をスタートさせた。医薬品製造のハード、ソフト全般に亘る基礎的な内容を1年間7回、専門家による講義と実習を行う理論と実践を兼ねた研修会である。入社3〜5年の若手技術者、医薬品製造に携わって比較的経験の浅い技術者を対象に定員30名募集したところ、定員の倍の応募があった。定員に絞らせて頂き、既に2回実施したが大変好評である。今回の薬事法改正に伴い、委受託製造が一層進む中で、委託側としては品質の確保と安定供給が最も関心の高いところである。委受託製造における品質確保のためには委託者ー受託者間のスムーズな技術移転が求められる。このようにアウトソーシング、企業のグローバル化が進む中で、企業においては技術者の育成は重要な課題であり、本研究会の活動が会員会社の技術者の教育・育成に少しでも役立つことが出来れば幸いである。今年度の研修結果を見て、参加者の意見、要望を参考に来年度は更に良い教育研修を企画して行く考えである。
|